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東京高等裁判所 平成11年(ネ)1975号 判決 1999年12月16日

控訴人 A野太郎

<他1名>

右両名訴訟代理人弁護士 後藤徳司

同 日浅伸廣

同 中込一洋

同 榊原一久

同 本島信

同 竹田穣

同 渡邉純雄

被控訴人 B山キリスト教会

右代表者代表役員 C川松夫

<他1名>

右両名訴訟代理人弁護士 永見和久

主文

一  控訴人A野一郎の本件控訴を棄却する。

二  控訴人A野太郎の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人らは、控訴人A野太郎に対して、連帯して金五〇万円及びこれに対する平成八年五月一一日から支払済みに至るまで年五分の金員を支払え。

2  被控訴人らは、控訴人A野太郎に対し、控訴人A野太郎がその指定する日時、方法、場所でその子である訴外A野春子及び同A野夏子と面接交渉をすることを妨げてはならない。

3  控訴人A野太郎のその余の請求を棄却する。

三  控訴人A野一郎の控訴費用は、控訴人A野一郎の負担とし、その余の訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その八を控訴人A野太郎の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

四  この判決は、右二項1に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人A野太郎(以下「控訴人太郎」という。)に対して、各自一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年五月一一日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。

3  被控訴人らは、控訴人太郎に対し、自らあるいは訴外A野花子(以下「花子」という。)をして同人らの子である訴外A野春子(以下「春子」という。)及び同A野夏子(以下「夏子」という。)との面接交渉について、控訴人太郎が指定する日時、方法、場所での面接交渉を妨げ、あるいは妨げさせてはならない。

4  被控訴人らは、控訴人太郎に対し、控訴人太郎が春子、夏子及びA野三郎(以下「三郎」という。)に対してする居所の指定を妨げるなどして親権の行使を妨げてはならない。

5  被控訴人らは、春子及び夏子を別紙物件目録記載のB山キリスト教会建物内に居住させてはならない。

6  被控訴人らは、控訴人太郎に対して、同人の妻である花子との面接及び同居を妨げてはならない。

7  被控訴人らは、控訴人A野一郎(以下「控訴人一郎」という。)に対し、各自三〇〇万円及びこれに対する平成九年九月六日から支払済みまで年五分の金員を支払え。

8  被控訴人らは、控訴人一郎に対し、花子、春子及び夏子との面接を妨げてはならない。

9  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

10  仮執行の宣言

二  控訴の趣旨に対する被控訴人らの答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり補正するほか原判決の「事実及び理由」欄の第二と同じであるから、これをここに引用する。

一  原判決五頁七行目の「ざんげ」を「キリスト教カトリックのざんげに相当する『悔い改め』」に、同八行目の「ざんげ」を「悔い改め」にそれぞれ改め、同六頁八行目の「昭和五七年二月一九日に」の次に「被控訴人C川松夫により」を加え、同九行目の「代表者」を「代表役員」に、同七頁六行目の「別居し、」を「別居し(ただし、住民票上の住所は被控訴人教会の所在地にした。)、」に、同七行目の「被告教会で寝起きして現在に至っている。」を「平成七年二月ごろから被控訴人教会の建物内で寝起きして学校に通っていたが、平成一一年七月二六日に花子と共に右アパート所在地である住所地に転出した旨の届け出がされ、住民票上転居の記載がされた(甲六〇、弁論の全趣旨)。」に改める。

二  原判決一〇頁三行目の「ざんげして」を「悔い改めて」に、同五行目の「ざんげ」を「悔い改め」に、同一四頁三行目の「積極的に関与し、」を「積極的に教唆、幇助して関与し、」に、同一五頁三行目、同六行目、同一〇行目、同一六頁四行目、同九行目の各「ざんげ」をいずれも「悔い改め」に、同一〇行目の「家庭破壊行為」を「離婚強要を含む家庭破壊行為等」に、同二三頁一〇行目の「ざんげ」を「悔い改め」に、同二六頁七行目の「責任能力を前提とするもの」を「自律的な責任能力の存在を認めるもの」に、同二八頁四行目と同五行目の各「ざんげ」をいずれも「悔い改め」にそれぞれ改め、同二九頁二行目冒頭から同五行目末尾までを次のとおりに改める。

「四 争点

1  被控訴人らによる違法な離婚強要を含む家庭破壊行為等の存否と控訴人らの慰藉料の額。

2  被控訴人C川による控訴人太郎の悔い改めの告白内容の漏えいの存否とその違法性、控訴人太郎の慰藉料の額

3  被控訴人らによる控訴人太郎と春子、夏子との面接交渉に対する妨害行為の存否、態様並びに控訴人太郎のこれに対する差止請求権の成否。

4  被控訴人らによる控訴人太郎の春子、夏子及び三郎に対する居所指定等に関する親権行使の妨害行為の存否並びに控訴人太郎のこれに対する差止請求権の成否。

5  被控訴人らの春子及び夏子を被控訴人教会の建物(別紙物件目録記載の建物)内に居住させる行為に対する控訴人太郎の差止請求権の成否。

6  被控訴人らの控訴人太郎と花子との面接交渉及び同居に対する妨害行為の存否並びに控訴人太郎のこれに対する差止請求権の成否。

7  被控訴人らの控訴人一郎と花子、春子又は夏子との面接交渉に対する妨害行為の存否並びに控訴人一郎のこれに対する差止請求権の成否。」

第三当裁判所の判断

一  被控訴人らによる離婚強要を含む家庭破壊行為等の存否(争点1)

1  花子と控訴人太郎の入信、花子の別居等に関する事実の経緯等に関する認定判断は、次のとおり補正するほか原判決の「事実及び理由」欄の第四の一の1(原判決二九頁一〇行目から同五一頁一〇行目まで)と同じであるから、これをここに引用する。

原判決三〇頁一行目の「四八、」の次に「五五ないし六二、」を、同六行目の「九〇、」の次に「九九及び一〇〇の各1、2、一〇一ないし一〇三、一〇五ないし一一〇、」をそれぞれ加え、同三二頁一一行目の「怒りぽく」を「怒りっぽく」に、同三三頁七行目の「神に告白する」を「神に告白して悔い改める」にそれぞれ改め、同三六頁七行目の「また、」の次に「平成六年七月に発行された」を加え、同三八頁五行目の「被告C川に」を「同年一月一〇日ごろ被控訴人C川に」に、同四九頁一〇行目の「怒りぽい」を「怒りっぽい」に、同五一頁八行目の「寝起きし、」を「寝起きしていたが、平成一一年七月ごろから、控訴人らの批判を受けた花子と被控訴人C川の意思により花子のアパートにおいても寝起きするようになり、」にそれぞれ改め、同一〇行目の末尾に「また、三郎は、平成一一年四月二八日突然控訴人太郎の元から家出をし、現在は、被控訴人教会の建物内で生活している。」を加える。

2  控訴人らは、まず、被控訴人らによる離婚強要を含む家庭破壊行為等により昭和六〇年一二月ごろ控訴人太郎と被控訴人教会との間で成立した入信契約の債務不履行が成立すると主張する。控訴人らの主張する入信契約とは、一般に宗教団体とその信者との間の信仰を共通にする関係の形成を意味するものと解されるが、右のような関係は、その義務と権利はいずれも信仰上の信頼関係を基盤とするものであり、宗教上のものであるから、法律上の契約とみなすことはできない。もとより、一般に宗教に対する入信によって、信者による金銭の寄付、宗教団体による施設の利用の許与などが伴うことが少なくなく、これらはいずれも専ら信仰上の動機に基づく無償の片務契約であることが多いが、これらの個別の契約関係の総体を法的な入信契約として構成することは、もともと信仰という精神的なものであることから法的強制になじまず、憲法上の信仰の自由の保障の観点から適切でない。

したがって、控訴人太郎と被控訴人教会との間の信仰上の関係を入信契約として観念することはできず、その債務不履行責任を追及する控訴人らの請求は失当である。

3  そこで、被控訴人らに、独自に又は花子と共同して不法行為が成立するか否かについて判断するに、この点に対する認定判断は、次のとおり、補正するほか原判決の「事実及び理由」欄の第四の一の2(原判決五一頁一一行目から同七〇頁一行目まで)と同じであるから、これをここに引用する。

(一) 原判決五三頁二行目の「寝起きして現在に至っている。」を「寝起きしていたが、現在は花子のアパートに住所を移転している。その生活行動の多くが被控訴人教会においてなされているものと推認される。」に、同七行目の「原告一郎の気持ちは、察するに余りある。」を「控訴人一郎には、相当程度の精神的被害が生じたことは容易に推認することができる。」に、同五三頁八行目の「娘ら」から同一〇行目の「いるものであり、」までを「娘ら二人については平成七年一月二〇日ごろから平成一一年七月まで、一方の親権者である控訴人太郎の意思に反して被控訴人教会の建物内で生活させており、その状況は今日においても完全に解消しているとは言い難く、このような行為が」に、同五四頁七行目の「強い影響力」を「宗教上の強い影響力ないし感化力」に、同五六頁三行目の「した、」から同九行目の末尾までを「したと供述するが、甲一三ないし二二によれば、平成六年四月から平成七年一月までの月刊小冊子『聖書の探求』においては、被控訴人C川が花子ら親子を念頭において後継者の必要と女性の信仰生活上の自立の必要を説いていると推認されることに照らせば、右の供述をそのまま信用することはできない。」に、同五七頁九行目の「疑いを容れる余地がある。」を「疑わしい。」に、同五八頁二行目の「被告C川が、」から同七行目の末尾までを「春子と夏子が今日父親である控訴人太郎に会うことさえ忌避しているのは、いかにも不自然であり、そこには母親である花子の意思が働いていると考えられるものの、母親が信仰心を寄せている被控訴人教会を介して花子らに強力な感化力を発揮している被控訴人C川の影響力も大きいと推認される。」にそれぞれ改める。

(二) 原判決五八頁一一行目の「怒りぽく」を「怒りっぽく」に、同五九頁五行目から六行目にかけての「自己の発言とその後の原告太郎の言動から夫の不貞行為を確認し、」を「花子の発言の真意を問いただそうとするその後の控訴人太郎の言動等から、控訴人太郎に不貞行為があったことを改めて確信するようになり、」に、同六〇頁一行目の「傾倒した」を「没頭するようになった」に、同八行目の「受けたい」から同一一行目の末尾までを「受けるため家を出たいという気持になった。そのような花子の気持が生ずるに至ったことについては、被控訴人教会において強い指導力を発揮していた被控訴人C川の宗教上の感化力が背景にあったと認められるが、最終的には、また、花子自身の判断で離婚と家出を決意したものと認めるのが相当である。」にそれぞれ改める。

(三) 原判決六二頁八行目の「ほかはなく、」から同六三頁三行目末尾までを次のとおりに改める。

「ほかはない。控訴人らは、花子の右のような家庭放棄もやむなしとする決意の形成は、被控訴人C川のマインドコントロールによるものであり、花子を後継者とすべく伝道師になるよう違法に勧誘したものであるとの主張をするが、前記認定のとおり、従前から被控訴人教会の各種活動に没頭していた花子は、夫の不貞行為を確信しつつも胸の内にしまい込み、宗教を心の依りどころとするようになっていき、平成六年三月一〇日ごろに神の召命を受けたと感じ、このことを被控訴人C川に告白したところ、被控訴人C川も花子の信心の深さを理解し、月刊小冊子『聖書の探求』において花子の右の信仰心を援助するかのような記事を書いたため、平成七年一月二〇日ごろ花子は離婚と家を出ることの決断をし、直ちにこれを実行に移そうとしたものと認められるのである。そうすると、花子のこのような家庭の放棄につながる行動は、被控訴人C川の信仰上の援助があったとはいえるものの、結局は、花子本人の信仰と婚姻に関連する熟慮の結果と見ざるを得ない。もとより、信者に対する任意で自主的な判断を困難にさせるような不当な監禁その他の身体的若しくは精神的抑圧又は強迫の下で、誤った事実認識を誘発するような教示、誤導等に基づき、信者の任意で自主的な信仰上の又は世俗価値に関する判断を狂わせるような直接的な影響力、感化力の行使は、むしろ信者の信仰の自由を奪いゆがめるものとして、これを違法と解すべきである。しかしながら、一般に宗教団体はこれに帰依する信者に対して程度の差異はあるものの信仰上の影響力、感化力を有するのが通例であり、信者には信仰の自由が保障されているのであるから、その任意で自主的な判断に基づく宗教上の帰依心を助長しようとする宗教的活動を直ちに違法ということはできない。花子においては、前示のとおり、被控訴人C川による『聖書の探求』の前記執筆の前に神の召命を受けたと自覚したというのであり、それに伴い、離婚と家出の意向を固めたというのであるから、任意で自主的な判断があったと認めるのが相当である。被控訴人C川においては、花子から神の召命を受けたとの告白を聞いてその信仰心の深さを理解し、『聖書の探求』に花子の行動を支援し推奨するような記事を書いたものであり、また、被控訴人C川は、前記認定のとおり、家を出た花子に対して住居上の援助を行ったほか、協議離婚届出書を同封して控訴人太郎に離婚を求める花子の手紙に、被控訴人教会が準拠する教会条例によっても花子の離婚は禁止されないから控訴人太郎の場合については花子の離婚を認める、という趣旨の手紙を同封させ、また、その約一か月後にも控訴人太郎に、同人が離婚に応じないことに失望した、花子に要求する資格が控訴人太郎にあるかは疑わしい、もっと大人になってわきまえを持たなければ被控訴人教会の秩序を乱すだけであるから集会出席停止処分にする、という趣旨の手紙を出していることが認められるから、被控訴人C川が、これらの手紙により、控訴人太郎に対して花子との離婚を強く勧奨していたことは明らかである。夫婦の協議離婚は、最終的には夫婦の自由な意思でのみ決せられるべきものであり、第三者が、強迫行為又は詐欺行為等により夫婦の離婚に関する自由な意思決定を阻害し又はこれをゆがめさせて離婚にふみ切らせようとした場合には、不法行為が成立し得ると解されるが、被控訴人C川の右の離婚勧奨行為は、花子が被控訴人教会の伝道師としてその活動に従事しようとしていたことと無関係ではなく、被控訴人C川の右の行動は、高潔なキリスト教の牧師のイメージとはかけ離れたものであるが、その動機は花子の信仰活動を援助しようとしたものであったと推認される。被控訴人C川が花子に不当な抑圧を加えたり、誤った事実を認識させるような教示、誤導等詐欺的行為を行ったこと(宗教活動には証拠等によっては真実性を証明できない事実を告げたりすることによる布教行為があるが、それが伝統的な観念等によるものである場合には、必ずしも誤導、詐欺とまでいえない。)を認めるに足りる証拠はなく、また、前記認定の経過によれば、被控訴人C川は、花子をマインドコントロールできるほどの聖性や宗教的力量があったものとは到底認めがたいので、花子の自主的な信仰上の判断や離婚等に関する判断を狂わせるような不当な影響力を行使したことを認めるに足りる客観的な証拠はない。」

(四) 原判決六四頁九行目の「現在、被告教会に寝起きし、」を「平成七年一月から平成一一年七月ごろまで被控訴人教会の建物内で寝起きし、その間」に、同六五頁八行目及び九行目から一〇行目にかけての各「被告教会で」をいずれも「被控訴人教会や花子のアパートを主な拠点として」に、同六七頁九行目の「ことは前示のとおりである。」を「こと、平成一一年四月二八日突然控訴人太郎の元から家出をし、現在は被控訴人教会の建物内で生活していることは前示のとおりである。」に、同一一行目の「うかがうことはできず、」から同六八頁二行目の「認めるに足りない。」までを「うかがうことはできない。三郎、春子及び夏子は、控訴人太郎と花子の共同親権の下に監護養育される身であるが、花子が家を出た際には、春子と夏子については本人の意思を確認し、これらの子が母親と共に別居することについて最終的には控訴人太郎も黙認せざるを得なかったと認められ、三郎についても無断で家を出たものの今日花子の側で生活していることについては控訴人太郎も事実上これを黙認しているものと推認されるから、現在右の三名の子がいずれも花子の監護の下にあることをもって、控訴人太郎の親権を侵害することには必ずしもならない。また、前示のとおり未成年の三人の子の居所の指定は、最終的には親権を行使する花子の意思に基づいているものと推認され、前記認定によれば、被控訴人C川は、夏子に対して特別な扱いをしていることが認められるが、その親権を行使する花子に対して、被控訴人C川が直接的、間接的に影響を及ぼしていることは推認されても、その自主的で任意の判断をするのを誤らせ、狂わせるような違法な影響力、感化力の行使をしたと認めるに足る証拠はなく、春子、夏子又は三郎に対する処遇の仕方は、花子の自主的な判断に基づくものと推認するよりほかはない。」に、同六八頁八行目の「娘ら二人」から同六九頁九行目末尾までを「三郎、春子、夏子の三人の子を被控訴人教会等を主要拠点として生活させ、結果として家庭破壊といえる状態を現出させているとしても、花子の被控訴人教会の伝道師になろうとした家出の行為は、任意で自主的な信仰心に基づくものであり、そこに被控訴人C川の違法な影響力、感化力の行使があったとは認められず、被控訴人C川の控訴人太郎に対する花子との離婚を勧奨する行為も、花子の決意と意向に沿う形で援助として行われていると認められ、控訴人太郎のみならず控訴人一郎との関係においてもこれを違法とすべき事情を認めることができない。また、春子、夏子及び三郎の父親又は兄弟との同居と面接交通を忌避する行動についても、花子が事実上単独で行使する不適切な親権の作用の結果と見るのが相当であり、そこに控訴人C川の違法な宗教上の影響力、感化力の行使を認めることができない。したがって、これらを総合しても、控訴人太郎に対する離婚強要を含む家庭破壊行為等が被控訴人両名の違法な宗教上の影響力、感化力によって行われたと認めるには足りない。控訴人らは、花子の行為において家庭破壊の不法行為が成立し、被控訴人C川の宗教上の影響力、感化力は、花子の不法行為に対する共同不法行為又は教唆、幇助となるものであり、被控訴人らにはこの点で不法行為が成立すると主張するが、前記認定のとおり、花子の信仰上の行動及びこれに伴う家族生活上の行動はいずれも任意で自主的なものであり、被控訴人C川によるこれに対する宗教上の影響、感化があったとしても、花子の自主的かつ任意な信仰心を違法に阻害し、ゆがめるほどのものであったとは認められず、共同不法行為又は不法な教唆若しくは不法な幇助があったと認めるには足りないから、この点で被控訴人らに不法行為が成立すると認めることはできない。」にそれぞれ改める。

二  被控訴人C川による悔い改めの内容の漏えい(争点2)

1  前記認定事実によれば、控訴人太郎は、昭和五七、五八年ごろに妻に隠れて浮気をし、不貞行為に及んだことがあり、そのことは花子の察知するところとなっていたものと認められるが、昭和五九年一二月に花子が被控訴人教会において洗礼を受けたことに影響されて、自らも洗礼を受けようとした際に、右の不貞行為を行ったことが良心のかしゃくとなっていたことから、昭和六〇年の夏ごろ、当時厚い信頼を置いていた被控訴人C川に対して、妻に対して不信実な罪を犯したが洗礼を受ける前にこれを妻に告白する必要があるであろうかと相談したところ、被控訴人C川からその必要はないとの返答を受けたので、同年一二月に被控訴人教会において洗礼を受けたことが認められる。したがって、控訴人太郎の右の相談は、被控訴人C川に対する悔い改めの告白であったと認めることができる。

2  ところで、被控訴人教会の信者を含むキリスト教徒が、牧師その他の聖職者に対して、宗教上の救済を得ようとして倫理に反する行為事実や宗教上罪となるべき事実を告白することは、もともとその告白について牧師その他の聖職者が秘密として守るべき義務を負うことを前提として行われているものであり、告白を行う者は、その事実に関係する第三者が告白の内容である事実を知っているか否かにかかわらず、外部に漏えいすることはないものと信頼し、専ら宗教上の観点から救済を求める趣旨で告白を行うものと推認される。その告白行為が専ら宗教上の行為であるとしても、牧師や聖職者の守秘義務は、宗教上の義務にとどまらず、宗教活動を職務として行うに不可欠なものとして、法律上も黙秘権として保護されているものであるから(例えば民事訴訟法一九七条一項二号等)、法律上も守秘義務があるものと解すべきであり、告白者の右の信頼は法的保護の対象となり得る法益というべきである。したがって、告白の内容が予期に反して第三者に漏えいされ、告白者のプライバシーや家族生活の平穏等の人格的利益等が侵害されたといえる場合には、不法行為が成立する。

3  これを本件について見るに、前記認定のとおり、被控訴人C川は、花子が家を出た後平成七年一月二〇日付けの手紙で控訴人太郎に離婚を要求した際に、同月二三日付けの手紙(甲二の1)を書き、これを花子の手紙に同封して花子をして差し出させていることが認められるが、被控訴人C川のこの手紙の内容は、控訴人太郎が被控訴人教会の教義と条例により離婚はできないとして花子との離婚を拒絶していると花子から聞いたが、離婚に関する教義と条例三四条は昭和六二年六月五日に改正されており、控訴人太郎の場合は過去に他の女性との間で関係を持ったと聞いているから、妻から離婚の申出があった場合にはその責任を取らねばならず、花子の申出により離婚を認める、というものであったことは前示のとおりである。前記認定のとおり、家を出る前約一一日間にわたって連日控訴人太郎に離婚を承諾するよう説得していた花子は、控訴人太郎が被控訴人教会の教義と条例が離婚を禁じていることを理由に離婚に反対したことから、被控訴人C川にその説得を依頼したものと推認されるが、証人A野花子の証言によれば、花子は、右の被控訴人C川の手紙の内容を確認したうえで、封筒を投函したことが認められるから、被控訴人C川は、花子の依頼で書いた右の手紙の内容を花子に見せた時点で、控訴人太郎に不貞行為があったという同人の告白の事実を花子に漏えいしたものと認められる。

花子は、右の証言の後に、投函する前に確認したのは甲二の1の手紙ではなく、甲五の1の手紙であったという訂正の陳述書(《証拠省略》)を書いているが、花子の被控訴人C川に対する前記依頼の趣旨に照らせば、花子が被控訴人C川の説得内容を確認することは自然な行動であり、花子の右陳述書(《証拠省略》)の右の部分は必ずしも信用することができない。

さらに被控訴人C川は、前記認定のとおり、同年二月二〇日ごろにも自ら控訴人太郎に花子の離婚の要求に応ずるよう勧奨する手紙(甲五の1)を出しているところ、甲五の1の右手紙には「姉妹(花子のこと)に対しては、女性関係の償いを明確にする必要があります。」という記述があることが認められるから、被控訴人C川は右の手紙においても、控訴人太郎の不貞行為を開示しており、前記認定の事実経過と花子の右陳述書(《証拠省略》)の趣旨に照らせば、花子はこの手紙をも事前に見ていたと推認することができるから、この手紙においても被控訴人C川の前記秘密を漏えいしていると認めざるを得ない。

もっとも、前記認定のとおり、花子は受洗の前に控訴人太郎と肉体交渉を持った際に、同人から「花子がやはり一番良い」などという独白を耳にし、控訴人太郎の求める体位が急に変化したことなどから、夫の不貞行為の事実に気付いており、また、平成四年ごろには、花子が被控訴人教会の集会において被控訴人C川に姦淫があった場合には離婚が許されるのかという質問をしたところ、その数日後に控訴人太郎が花子の前記質問の真意を探るような言動を示したことがあったことから、改めて控訴人太郎に不貞行為があったことを確信するに至ったと認められるが、そのことは自分の胸に秘めたまま、昭和五九年一二月に被控訴人教会で洗礼を受け、控訴人太郎にもそのことを追及するようなことはしなかったために、控訴人太郎も長期間にわたって花子が自分の不貞行為を気付いていたことを知らず、花子が家を出る直前に約一一日間にわたって連日持たれた二人の話し合いにおいても、花子は離婚を要求する理由に控訴人太郎の不貞行為を上げなかったと認められるのであって、結局、控訴人太郎は、被控訴人C川の前記手紙が花子の手紙に同封されて到達するまで、花子が自分の不貞行為を知らないものと認識していたと認められる。

4  しかしながら、前示のとおり、キリスト教徒における牧師等に告白した悔い改めの事実が開示又は漏えいされないという信頼は、関係者がそのことを知っているか否かにかかわらず、法的保護の対象となるものというべきであり、その開示又は漏えいにより、告白者のプライバシーや家族生活の平穏等の侵害があった場合には、不法行為が成立する。

右の事実によれば、被控訴人C川が、控訴人太郎に無断でその不貞行為があったと認め得る事実を控訴人太郎への手紙に書き、これを花子に見せて確認させた行為は、告白事実の漏えいに当たると認められ、不法行為を構成する。また、被控訴人C川は、被控訴人教会の代表者であり、被控訴人C川の右の不法行為は民法四四条一項の規定により、被控訴人教会の不法行為となるべきものであるから、被控訴人らは連帯して賠償責任に任ずべきである。

5  右の不法行為により、控訴人太郎に精神的苦痛が生じたことは容易に推認することができる。そこで、その慰謝料の額を検討するに、控訴人太郎においてはその後も花子が伝道師の道を選択したことを支持する言動をとっていたと認められるが、花子との離婚に対しては終始これを争う姿勢を示していたこと、被控訴人C川の不貞行為を理由とする離婚の許容の意思表示は、花子の決意に相当の影響を及ぼしたと推認されること、しかし花子は控訴人太郎の不貞行為の事実を早い段階から知っており、花子の離婚の決意の原因は必ずしも右の不貞行為のみであったとはいえないことなどの諸般の事情を斟酌し、これを五〇万円と認めるのが相当である。

三  控訴人らの各差止請求権の成否等(争点3ないし7)

1  被控訴人らによる控訴人太郎と春子、夏子との面接交渉に対する妨害行為の存否、態様並びに控訴人太郎のこれに対する差止請求権の成否について(争点3)

(一) 前記認定事実によれば、春子と夏子は、平成七年一月二〇日ごろから平成一一年七月ごろまで別紙物件目録記載の控訴人教会の建物内で寝起きして生活していたものと認められ、《証拠省略》によれば、控訴人太郎が時折春子と夏子に面会を求めても、被控訴人C川らはこれを拒否し、春子と夏子の通学の途中に控訴人太郎が接触することができたものの、今日では春子と夏子は控訴人太郎と会うことを忌避し、控訴人太郎に対して、会いたくないので会いに来てくれるなという趣旨の手紙を書き、かつ、その旨の陳述書を原審裁判所に提出し、控訴人太郎が病気である祖母に春子と夏子を会わせてほしいと被控訴人C川に依頼した際には、同人は花子の指示に従うべきであると応答して事実上これを拒絶し、そのような状態が今日まで続いていることが認められる。

(二) ところで、控訴人太郎と花子の婚姻関係は今日まで継続し、春子と夏子は二人の共同親権に服しているものであるところ、前記認定によれば、平成七年一月二〇日に花子が家を出た際には、花子が春子と夏子をともに連れていくことを控訴人太郎も最終的には黙認していたものと認められるから、共同親権者の間で、別居の期間中は当面春子と夏子を花子の監護の下に置くという親権行使方法に関する暫定的合意が黙示的に成立していたものと推認せざるを得ない。しかしながら、右の合意は、控訴人太郎の春子と夏子に対する親権を一切行使しない、又はこれを放棄するというものであったと解することはできないから、春子と夏子に対する控訴人太郎の親権は、依然としてこれを行使することができると解すべきである。したがって、控訴人太郎が春子と夏子を引きとって同居させることは、右の親権行使方法に関する暫定的合意に違反するが、控訴人太郎が春子と夏子に面接交渉をすることは、花子の共同親権、監護権の行使を阻害しないかぎり、控訴人太郎の固有の親権の内容に含まれると解すべきである。

被控訴人C川と被控訴人教会は、従前から控訴人太郎と被控訴人教会の建物内で生活していた春子又は夏子との面接交渉を拒絶し、これを求める控訴人太郎の親権の行使を妨害していたものと認められる。被控訴人らの右の妨害行為は、控訴人太郎の親権の行使を違法に侵害するものといわなければならない。前記認定事実に照らせば、右のような妨害は今後も継続する虞があると認められるから、控訴人太郎は、被控訴人らに対して、親権に基づき、春子又は夏子との面接交渉に対する妨害行為の禁止を請求することができるものと解するのが相当である。

(三) また、控訴人太郎は、被控訴人らが花子をして右の面接交渉を妨害させてはならない旨の差止めをも請求するが、前記認定のとおり、花子は、任意かつ自主的な判断により春子と夏子の監護行為に当たっているものと認めるのが相当であり、花子に対して被控訴人らが違法な宗教上の影響力、感化力を行使しているとはいえない。したがって、花子の親権又は監護権の行使に対して、被控訴人らが影響力を有すると認めることができないから、被控訴人らに対する花子をして控訴人太郎の親権の行使を妨害させてはならない旨の禁止を求める控訴人太郎の請求部分は理由がない。

2  春子、夏子及び三郎に対する居所指定等に関する親権行使に対する被控訴人らの妨害行為の存否並びに控訴人太郎のこれに対する差止請求権の成否(争点4)。

(一) 前記認定によれば、春子と夏子は、平成七年一月二〇日ごろから平成一一年七月ごろまで別紙物件目録記載の控訴人教会の建物内で寝起きして生活していたが、その後は専ら花子のアパートと右教会建物を主要な生活拠点として生活をしていること、三郎は平成一一年四月二八日ごろから被控訴人教会の建物で寝起きしているものと認められるが、結局は、今日では概ね春子及び夏子と同様の生活をしているものと推認される。

(二) 右の事実によれば、春子と夏子は、現在被控訴人教会の建物内のみで生活していると断定することはできず、その親権者の居所指定権等が妨害されているとは必ずしもいえない。また、前記認定のとおり、控訴人太郎と花子との間には春子と夏子に親権の行使方法に関する暫定的合意が黙示的に成立しており、右両名については、花子がその親権に基づいて春子と夏子の居所指定等の指定をしているものと認められる。そうすると、被控訴人らが春子と夏子に対する控訴人太郎の居所指定等の親権を妨害しているとは認め難く、将来的にもその虞があるとはいえない。

(三) また、三郎については、前記認定によれば、控訴人太郎と花子との間の親権の行使方法に関する合意によっても、花子の監護権又は親権の下で生活すべきものと合意されてはいなかったというべきであるが、今日のその生活状況は、概ね春子、夏子と同様であると推認することができるから、三郎についても被控訴人らがその居所指定等の親権の行使を妨害していると認めることができない。

(四) 以上のとおりであり、春子、夏子及び三郎に対する居所指定等に関する親権行使に対する被控訴人らの妨害行為の存在を認めることができないから、その差止めを求める控訴人太郎の請求は理由がない。

3  春子及び夏子を被控訴人教会の建物内に居住させる行為に対する控訴人太郎の差止請求権の成否(争点5)。

(一) 前記認定のとおり、春子と夏子は、平成七年一月二〇日ごろから平成一一年七月ごろまで被控訴人教会の建物内で寝起きして生活していたが、その後は専ら花子のアパートと右教会建物を主要な生活拠点として生活をしていると認められる。しかしながら、被控訴人らが花子の居所指定等についての親権を妨害してまで、将来において再び右教会建物内に春子及び夏子の生活の本拠を移す虞が高いとまで認定するに足る証拠はない。

(二) したがって、春子と夏子を被控訴人教会の建物内に居住させる行為の差止めを求める控訴人太郎の請求は理由がない。

4  控訴人太郎と花子との面接交渉及び同居に対する妨害行為の存否並びに控訴人太郎のこれに対する差止請求権の成否(争点6)。

(一) 控訴人太郎は、花子との面接交渉及び同居に対する妨害行為があるとし、その差止めを請求するが、前記認定事実によれば、花子は、任意で自主的な判断により別居し、控訴人太郎との離婚を求めて面接交渉を拒否しているものと認められ、平成七年一月二〇日に別居する際には、二人は約一一日間にわたって話し合った後に別居生活に至っており、控訴人太郎も現段階ではそれをやむを得ないものとして当面は了解しているものと認められる。また、被控訴人らにおいて、花子の面接交渉や同居拒絶について、花子に対し違法な宗教上の影響力、感化力を行使していることを認めるに足る証拠はない。

(二) そうすると、被控訴人らにおいて、控訴人太郎と花子との間の面接交渉、同居をことさらに妨害していたとは必ずしもいえず、本件全証拠によるも、被控訴人らが今日において控訴人太郎と花子との面接交渉、同居を妨害していると認めることはできない。したがって、被控訴人らにその妨害行為があるとして差止めを求める控訴人太郎の請求は理由がない。

5  控訴人一郎と花子、春子又は夏子との面接交渉に対する妨害行為の存否並びに控訴人一郎のこれに対する差止請求権の成否(争点7)

(一) 春子及び夏子の兄である控訴人一郎は、平和で団らんのある家族生活を求めることができるという人格権に基づき、春子と夏子に対する面接交渉に対する妨害の禁止を請求するが、控訴人一郎には春子及び夏子に対する親権のような権利がなく、その人格権の一内容として平和で団らんのある家族生活を享受する権利を認めることができるとしても、本件においては、被控訴人らがこれを妨害すべく、春子及び夏子との兄弟間の面接交渉を阻止しているとまで認めるに足る証拠はない。

(二) したがって、控訴人一郎の右の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

四  右のとおり、控訴人太郎の本件請求は、被控訴人らに対して慰藉料五〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年五月一一日から支払済みまでの年五分の遅延損害金の支払、被控訴人らに対して春子及び夏子との面接交渉に対する妨害の禁止を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、控訴人一郎の請求はいずれも理由がないというべきである。

第四結論

以上によれば、控訴人太郎の本件請求は、右の限度で認容されるべきであるが、その余は棄却されるべきであるから、右と異なる原判決を右の限度で変更し、控訴人一郎の控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 廣田民生)

<以下省略>

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